当研究室で多方面の研究を行っていますが,その一部を紹介します。
生物多様性の保全政策
開発により世界的規模で生物多様性の喪失が深刻化しています。生物多様性を守るためには,森林を適切に管理するなどの対策が必要ですが,多額のコストが必要となります。
そこで,生物多様性保全を実現するためには,保全コストを受益者である企業や一般市民が負担する仕組みを構築することが不可欠です。
海外では,生態系サービスの受益者が管理費用を負担する「生態系サービスへの支払制度(PES)」や開発によって生態系が失われる代わりに代償費用を企業が負担する「生物多様性オフセット」などの制度が存在します。こうした生物多様性保全の制度を国内で実現したときの経済効果について研究を行っています。
国立公園の利用と管理
近年,登山ブームにより国立公園を訪問する人が増えています。ところが,大型連休など特定時期に利用者が集中するため,いくつかの地域では過剰利用による生態系への影響が懸念されています。また,利用者の増加にともない,山岳遭難事故も急増しており,その対策が緊急の課題となっています。
そこで,世界自然遺産に登録されている知床国立公園など北海道の国立公園・国定公園を対象に訪問者の利用動向データを収集し,過剰利用の実態や遭難事故リスクの分析を行っています。こうした分析をもとに,今後の国立公園の利用と保全のあり方を検討しています。
温暖化対策における森林の役割
森林は温暖化の原因となる二酸化炭素を吸収する性質があります。そこで,温暖化対策として森林が注目を集めています。森林を利用した温暖化対策としては,間伐などの森林管理を適切に行うことで森林吸収を実現する方法や,ボイラーで重油を燃やす代わりに間伐材を利用することで排出削減を行うなどの木質系バイオマスの方法があります。
しかし,現状では間伐などの森林管理に多額のコストが必要であるため,森林吸収や木質系バイオマスによる温暖化対策は必ずしも効率的とはいえません。現在,林業の再生という観点から路網整備や高性能林業機械の導入が進められていますが,温暖化対策という点からも,こうした森林管理コストの削減が緊急の課題となっています。
また熱帯林が失われると大量の二酸化炭素が排出されるため,熱帯林の保全は温暖化対策の観点からも世界的に注目が集まっています。このように温暖化対策としての森林の役割が注目されていますが,森林の保全が地球温暖化対策としてどれだけの効果をもたらすのかについて経済評価の研究を行っています。
流域管理による水質改善
全国的に河川の水質は改善されてきましたが,琵琶湖などの湖沼では水質基準を達成できていない地域が多数存在します。これまで国内の水政策では工場などの点源汚染に対して排水規制を行ってきました。しかし,生活排水や農業排水などの面源汚染を直接規制で管理することは膨大な監視コストが発生するため実現が困難です。
そこで,上流地域の生活排水や農業排水などを適切に管理し,流域全体で水質を保全するために新たな政策が注目されています。たとえば,排水に応じて費用負担を求める排水課徴金や,農家の排水対策コストを企業が負担することで企業の排出削減量としてカウントする水質取引などの制度が海外では存在します。
こうした新たな経済的手段を国内の水質保全政策に導入したときの影響について,水質シミュレーションモデルや経済実験などにより分析を行っています。
その他
当研究室では,上記以外にも様々な研究テーマを対象としています。木材市場や林業労働などの従来から存在する林業問題から,鳥獣被害対策やコモンズのガバナンスなどの最近のテーマまで幅広く研究しています。